戦争と声なき女の子 「やがて来たるものへ」
穏やかな美しい農村に忍び寄る戦争の影を
一人の少女の無垢な瞳を通して描かれた悲劇の映画。
(『やがて来たるものへ』原題 L'uomo che verrà イタリア・2010年)
監督 ジョルジョ・ディリッティ
出演 アルバ・ロルヴァケル
マヤ・サンサ
クラウディオ・カサディオ
グレタ・ズッケーリ・モンタナーリ
ステファノ・ビコッキ
エレオノーラ・マッツォーニ
1944年9月29日に実際に起きた「マルザボットの虐殺」
を題材にしています。
当時の農村の人々の暮らしが詳細に濃密にえがかれており、
映像の美しさはもちろん、淡々と日々の生活の出来事を描きつつも、
終盤になるにつれ戦争の残酷なシーンや背景事情が浮かび上がります。
<時代背景>
イタリアは当時、ムッソリーニ率いるファシストによって統治されていて、
第二次世界大戦では日本、ドイツなどとともに連合軍と戦っていました。
しかしいったんシチリア島から上陸してきた連合軍にムッソリーニが逮捕されてしまうと
イタリアと連合軍の間で休戦協定が結ばれます。
その間にドイツ軍が進軍しムッソリーニを救出、
そしてほぼイタリア全土を占領し、
イタリア社会共和国というムッソリーニをトップとする、実質ドイツ軍の傀儡政権を樹立。
南部から北上する連合軍と攻防します。
そこでドイツ軍およびファシストに反抗するパルチザンという勢力が
イタリア各地で蜂起、ドイツの占領を妨害します。
後にムッソリーニが愛人のクラーラ・ペタッチとともに
パルチザンに捕らえられ処刑されますが
この映画はこの終結するまでのイタリアでの内戦を伴う戦争においての
できごとです。
めちゃくちゃ込み入った背景事情ですが
「ファシストもやってきて、私達の言葉を話します。怒鳴って、反乱軍は山賊だ、殺せ、と言います。それで私は皆、人を殺したいのだと知りました。理由はわかりません(劇中のマルティーニの日記)」
ドイツ軍は反乱軍=パルチザンを捕虜にしようとはせず(正規軍とみなさなかった)、
かくまった住民ともども殺害を命じました。
品の中には厳しい状況のなかで様々な立場のひとが登場します。
パルチザンに加わる村の若者、
食糧を買いにくるドイツ兵、
パルチザンを助ける大人たち、
手当てはするもののあまり快く思わない女たち、
住民を守ろうとする牧師、
疎開してきた都会の親子など・・・
しかし主人公マルティーニの感動的な愛らしさよ!
この憂いをおびた眼!並みの8歳じゃない。
声を出すことがない分、瞳で語っているというか。
やぶいたお古のミニスカート、花柄の礼拝ワンピース、
衣装も完璧に可愛さを引き立てます。
音楽も、すてきで
牧歌のようなうたや民族音楽てきな合唱が絶妙に配置されてます。
パルチザンがドイツ兵を撃つシーンや
ドイツ兵が機関銃で住民を一斉射殺するといったショッキングなシーンは
前半の穏やかな農村風景、そしてあくまで淡々とした描き方のために
よりいっそう悲しさを増します。